小説

ゼロの焦点(松本清張)感想

感想(少しネタバレあり) 戦後初期を舞台にしており、当時の雰囲気を感じさせてくれる作品。 『点と線』では政治的な暗い背景のもと事件が起きたが、社会派と称する、されるだけあり今作も同様に時代的背景を組んだ作品になっているように思う。 『ゼロの焦点』では女性視点でストーリーが展開されるが、この女性の心理描写が細かく面白かった。 登場人物の過去が影響している訳で、一概にこの時代の~とは言えないのかも知れないが、本作の女性たちは一様に自信を持っているように見えとても力強く映り、当時を知らない自分に”戦後間もない日本の女性たちは意志が強かった”という印象を植え付けるほど。 しかし力強さの裏には、自身の立場を守ることへの焦燥も垣間見る事ができ、この”自信”と”不安や焦り”の危うい心のバランスが本作の見所であり面白さであると思う。 言ってしまうと自分の祖父が好きだった著者の作品なので、昭和と平成のはざま世代の自分に取ってはかなり古い作品になってしまうのだけれど、名作は時代も超えるもの。 今の時代に読んでもしっかり面白い作品だった。 ゼロの焦点改版 (
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クラインの壺(岡嶋二人)感想

作品紹介 この作品を短く紹介するならば”バーチャルリアリティという刊行当時(1989年)は認知度が低かったSF要素を取り入れつつ、ミステリとしての完成度も随一である意欲作”というところだろう。 主人公が出版社宛に「ゲームブック」のシナリオを投稿したところ、「イプシロン・プロジェクト」というバーチャルゲームの制作会社から思わぬオファーを受けたことから本作は展開されていく。 大学4年生、働き口なし!という状況の主人公は喜々としてその話に乗り、結果としてバーチャルゲームの原作者兼テスターとして採用されることに。 プレイヤーとしてバーチャルゲームの再現性の高さを目の当たりにした青年は、次第にそのプロジェクトに心を奪われてゆくこととなる。 ところが、同じくテスターとしてプロジェクトに参加していた少女が突然失踪する所から物語は一気に暗転。主人公は「イプシロン・プロジェクト」に疑問を抱くようになり……これがストーリーの概要である。 感想(少しネタバレあり) 設定自体が当時としては斬新で楽しめるものになっており、今読んでもちゃんと面白い。 1989年という時代は現在の
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イニシエーション・ラブ (乾くるみ)感想

作品紹介 この作品は著者自身(かどうかは知らないが)が「最後から二行目で別モノになる」と裏表紙で予め告知しているのが特徴的だ。早い話以下のように紹介がなされている。 僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説―と思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。 本書裏表紙より いいのか、それ言っていいのか!?と驚かずには要られない、なんとも挑戦的な文面である。こういう書かれ方をしていると、おおかたどんなトリックだか想像出来てしまうというのに…。 それに、なんだかこの紹介文自体が読んだ人の感想のような……。 感想(少しネタバレあり) 普通に読み進めている分には、普通の青春小説だ。本作はサイドA、サイドBという二つのパートに分かれているのだが、少なくともサイドAを読み切った時点では「やべえ、超爽やか!」という感じで特別ミステリらしい違和感もなかった。 そしてBサ
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殺戮にいたる病 (我孫子武丸)感想

年末が近づき、ぼちぼち居酒屋の予約が取りづらくなってきた。例のウイルスにより出歩くのが難しい時期もあったが、最近は活気が出てきたようで普通に席が一杯になってる。おかえり。 今回の殺戮にいたる病については、自分が学生の頃から何度も読んでいる作品で、再読になるが、それでもやっぱり面白い作品だった。すごい。 感想(少しネタバレあり) 叙述トリックの傑作として名高く、各所のミステリーランキングでも高い評価をされている本作。 3つの視点で進んでいく物語の緊迫感、また各人物の心理描写が優れている。 特に犯人側の心理描写がエグい。 猟奇殺人事件を起こす人間の思考はおよそ一般読者に理解できるものではないが、理解できないからこそ惹きつけられる魅力があるのも間違いなく、それだけで犯人の思想、行動に興味が湧いてしまう。特に犯人の母親への執着は異質。 加えて、ストーリー上の別視点である母親もだいぶズレた人物となっており、こちらは息子への執着が異質。正直だいぶ気持ち悪い。 3つの視点のうち2つの視点が狂い気味なので物語の雰囲気自体もだいぶ異質なものになっている。 ミステリー
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そして扉が閉ざされた(岡嶋二人)感想

12月になり一気に寒くなってきた。今年の冬は例年より寒いらしいと言われていたが、ほんとにその通りとなってしまった。 3年ぶりに毛布を引っ張り出してきた。頼るまでもないと思っていただけに、ちょっとくやしい。 作品紹介 目が醒めると、そこは密室だった……という理不尽な状況で始まりまる今作。集められた四人は、互いに面識のある男女。 何故こんなことになったのか?という推考から始まり、それが過去に起きた共通の友人の死に繋がり、その不可解な死の推考が始まる。 と、ストーリーはざっとこんな感じ。刊行が1987年なので、だいたい35歳くらいの世代。 感想(少しネタバレあり) 登場する人物たちがかなりの曲者揃いで、思わず「こいつもう黙れよ」と思う事もありつつ、最後まで読めば良い作品だった。 評価されているのは、やはりストーリーにあるのかと思う。 面白いと思ったのは、登場人物は密室状態にいるのに、解明すべき事件自体は密室状態では無く、しかしながら、密室の醍醐味の一つである「疑心暗鬼」が上手く描かれている点。 こうなったのは誰のせい?と周囲に敵意を向けながらも、密
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カラスの親指 by rule of CROW’s thumb(道尾秀介)感想

道尾秀介著「カラスの親指」を読了。 著者の作品で有名なのは「向日葵の~」だと思うが、正直なところ自分にはハマらなかった。 昔ならこの人の作品はもう無理!って感じだったが、流石に歳食って先入観がなくなったので、ようやく手に取ることができるようになった。やはり一作品だけで作風は分からないと思う。 作品紹介 第62回日本推理作家協会賞を受賞してたり、直木賞候補になったりと勲章が多い本作。2012年には実写映画化もされておりこのタイトルを知っている人は多いはず。 映画化されるんだから原作は間違いなく面白いよね、うん。 感想(少しネタバレあり) 疾走感がありテンポ良く進むストーリー、ラストの意外性、ところどころで挟まれるシュールなギャグ。文句なく面白い作品だ。これは映画化されるのも頷ける。 ミステリーファンだけでなく、他ジャンルを好む人や普段本を読まない人でも楽しめるのではないだろうか。 個人的に、ハッピーエンドを迎えるなら犠牲者なんか出ない方がいい、疑似家族という要素を持っているなら尚更一人も欠けてはいけないと思っているので、しっかり犠牲者(?)について
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凍花(斉木香津)感想

作品紹介 2008年にデビューしている、比較的新しい作家である斉木香津。 そんな著者の第二作目にあたるのが『凍花』だ。 家族間で起きたある事件を追っていくミステリー作品となっている。 感想(少しネタバレあり) 三女柚香の姉に対する感情の変化が実に人間らしくリアルであり、それがこの作品を「実際に起こりうるかも知れない家庭問題」を描いた作品として成り立たせていると感じた。 本作は割と他の人間がしっかりしていたので、最終的に悲しいながらも前向きなストーリーになったが、周りの人間がそろいも揃ってダークサイドに堕ちていたら……という点が想像するに易い。この辺りが上手い。 正直なところミステリとしては物足りないが、幅広い層に受け入れられる作風であると思う。個人的にはなかなか面白く読めたので、その他の読んでみたい。 それにしても…… 人の本心なんて分からないよな、うん。会話って大事ね。 凍花【電子書籍】[ 斉木香津 ] ショップ: 楽天Kobo電子書籍ストア ¥528 ※価格やショップ情報は楽天のものです 楽天で見
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