小説

ロートレック荘事件(筒井康隆)感想

作品紹介 ロートレック荘事件は、「時をかける少女」で有名な筒井康隆氏のミステリ作品だ。元々SF作家として有名であり、ミステリ畑では多くの作品を書いている訳ではないものの、多くの人が本作「ロートレック荘事件」を秀逸なミステリとして評価していたりする。 面白い作品を作れる人はどんなジャンルでもいけてしまうのか!? 感想(少しネタバレあり) 事故で体が成長しなくなった(下半身が不自由になった)男と、その原因となった男。加害者となってしまった男は、自分の過ちが奪った、友人の「支え」となる決心をし、現在まで交流が続いている、と言う。 その回想後、二人と共通の友人である工藤は、事件の舞台となるロートレック荘に出向くことになる。 ……と軽くストーリーの概要を書いたものの、上記の解釈はこの作品を楽しむ上では間違っている。 プロローグ、次章を読んだ時点で、概要を自分の中でまとめて、上記のようになったらのであれば、その人はこの作品を心から楽しむ事は出来ないのかも知れない。 まあそれはさておき、この作品の本当の見どころは、男二人の友情、綻び、そして悲劇にある。 プロロー
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螢(麻耶雄嵩)感想

作品紹介 ザ、王道シチュエーション「嵐の山荘」もの。 ミステリファンならそれだけでも充分に手に取るレ理由になるし、評価の高い作品が多くあるジャンルだが、これをクセの強い作風で知られる麻耶雄嵩がやったというのが面白い。 殺人鬼ジョージってなんや。 感想(少しネタバレあり) クローズド・サークルにしてはあまり緊迫感がなく、ストーリー運びが平坦な印象を受けた。 個人的には、閉じた空間、一人消える毎に絞られていく犯人、徐々に大きくなる恐怖……というようなサスペンス要素が強いクローズド・サークルが好みなのでやや残念ではあった。 しかし、メイントリックはなかなか面白い仕掛けになっており、ハマる人にはハマるはず。一捻り加えて複雑にされているため、割とガチのミステリファンにも受ける気がしなくもないのが、どうだろう。 それにしても随分難しいことを…… これをキレイに落としたのは純粋に凄い。意味深でちょっとシュールなラストも著者らしくていい。多分最後まで読んだ読者の多くは「どういうことなんや!」と思うに違いない。 傑作まではいかなくとも、充分に楽しめる作品だ。
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慟哭(貫井徳郎)感想

作品紹介 貫井徳郎の処女作であり、代表作でもある「慟哭」。 連続幼女誘拐事件から始まる警察ものになっており、警察側の視点と、別視点の新興宗教に救いを求める男の2つの視点でストーリーが進行する作品となっている。 叙述トリックの名作として良く名前が上がっていたりする。 感想(少しネタバレあり) 作品全体として、とにかく丁寧に作られている印象を受けた。 物語はオーソドックスに犯人、追う側で展開され、そのいづれも「現在何を行っているか」が理解しやすいように描かれておりストーリーを掴みやすい。 文章も比較的軟らかく、普段本を読まない人でも手に取りやすいはず。シンプルで分かり易いミステリだと思う。 結末に賛否両論あるみたいだが、自分してはアリなのでは、と思っている。 賛否の否の意見は、後味が悪くなってしまった部分への評価だと思う。 確かにミステリとしてはすっきりしない部分はある。シチュエーション的にも「来るか…!?」と身構えていたのになにもなくて拍子抜けする部分があったりはした。 なんとかしてラストにもう一つ衝撃を持ってこれればより多くのミステリファン
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湖底のまつり(泡坂妻夫)感想

作品紹介 1978年に刊行された歴史ある本作は、村祭りや住民運動と、1988年生まれの自分であっても想像付かない要素が盛り込まれており、同じようにこういった時代や土地を知らない人にはこの要素だけでも興味深いだろう。 いろんな作家からとても評価されている名作で、華麗な騙し絵なんて言われている。 感想(少しネタバレあり) 紹介で「華麗な騙し絵」と評されているとおり、いろいろな意味で読者の想像を超えてくる作品。 まず、祭の様子や川の流れ、舞台となった千字村の情景が浮かんでくるような、丁寧な描写が印象的。 おどろおどろしい雰囲気になりがちなミステリというジャンルで、透き通るように美しい村が描かれているのが何とも対比的で面白い。 だいたいこの手の村が出てくる黒い部分が強調される気がするが。 ミステリの肝であるトリックもまた美しい。 決して派手でなく、誰もが驚く仕掛けではないのかも知れないが、それでも自分は作品を最後まで読んだときにその必然性に驚かずにはいられないかった。 本当に物語の結末とキレイに繋がるのだ。無駄がない。 …とこれ以上は控えておくが、
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モルフェウスの領域(海堂尊)感想

作品紹介 最先端医療ミステリーと謳っており、コールドスリープという、とっても心踊ってしまう題材を用いている本作。 コールドスリープ自体は割と見かけるネタだと思うが、この作品は扱い方が真剣、シリアスであるのが特徴となっている。 著者はチーム・バチスタの栄光という有名作品を書いている人なので、そちらを読んでいたりドラマを見たりして知っている人が多いかも。 この作品は医療にSF要素を取り入れているのがこれまでの作品と違うところで、面白い部分だ。 感想(少しネタバレあり) 当たり前と言っていいのかは良く分からないが、どうしてもコールドスリープというテーマ自体はリアリティに欠けるものではある。 しかしながら、本作はコールドスリープに関する設定がしっかりしており、考え方も力強く、読者としても考えされらるテーマがある。 著者が医療関係者というのも説得力を生む要因か。特に人権の話はとても興味深く惹きつけられた。 ストーリーに関して。 言ってしまえば主人公の一人舞台的なストーリー。そうなると当然主人公の行動一つ一つが重要になってくる。 本作では最初から最後ま
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獄門島(橫溝正史)感想

作品紹介 金田一耕助シリーズの二作目。 時系列的には、二作目といえど、前作との間に戦争を挟んでいるためだいぶ年月が経っている。 この戦争における戦友の頼みで獄門島を訪れた金田一が連続殺人事件に巻き込まれるのが今作の始まりだ。 閉鎖的な島で起きる連続殺人事件は凄惨ながらどこか美しくそして悲しく、読むものを魅了する。 亡者の魂は祟りとなり生者の心を蝕んでゆく。 芭蕉の俳句とトリックに注目すべし! 感想(少しネタバレあり) 金田一耕助シリーズ屈指の名作と名高い今作。 もはやここで語る必要のないくらい完成され多くの読者を虜にしている訳だが、それも当然と思わずにいらいない面白さ。 連続殺人事件のトリックからストーリーの裏側までとにかく精巧に作られており、その見立て殺人は美しいの一言。 美しくあり、感傷的。 立ち入った者全てが、獄門島の雰囲気に飲まれるに違いない。 長い時を経て尚輝く、不朽の名作だと思う。 かなり満足度が高い一冊だった。 【中古】金田一耕助ファイル(3)−獄門島− / 横溝正史 (文庫) ショップ:
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少女地獄(夢野久作)感想

作品紹介 ドグラ・マグラで有名な夢野久作の短編集。 虚言に虚言を重ね心の行き場が無くなった少女の物語「何でもない」、殺人が殺人を呼んだ「殺人リレー」、衝撃的な復讐劇「火星の女」と三人の女性に巣くう心の闇を描いた作品になっている。 青空文庫で公開されているので、そちらで無料で読むことが可能。 https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card935.html 感想(少しネタバレあり) どのストーリーにおいても、純粋に娯楽として楽しめる物語でありながら、人間の心に潜む闇について考えさせられる絶妙なバランスとなっており、特に「何でもない」は秀逸だと感じた。 この「何でもない」の主人公、ユリ子は虚言に虚言を重ね、散々周りの人間を惑わし、自らの引き際さえも他人を利用するという、なんとも恐ろしい女性だ。 ストーリー序盤で明かされている物憂げな彼女の遺書も、この物語を読み終える頃には、違ったものに見えてくる。 嘘から始まり嘘にて終わる。嘘だから何も無い。 そんな彼女の一生はとても魅力的で悲しく映る。 「何でも無い」につい
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