小説

黒いトランク(鮎川哲也)感想

作品紹介 りら荘事件の著者である鮎川哲也の長編作品の一つ。 アリバイ崩しが得意な鬼貫警部を主人公としたシリーズ作品となっている。 自分はよく作品を選ぶ際に東西ミステリーベスト100(2013年刊行)という書籍を参考にしていて、そこの国内編ランキングで11/102位。名作や! 感想(少しネタバレあり) 著者の代表作「りら荘事件』を読んだ際に見事なハウダニットに感嘆したものだが、この『黒いトランク』も同様にどのように犯行が行われたかに焦点を当てた作品になっている。 読者が混乱すること必須の複雑さの上に成り立った事件の真相は思わず「すげぇ…!」と呟いてしまうくらい。 この作品の肝は表題にある二つの黒いトランクの入れ替わりにあるのだが、このトランクの動きが本当に複雑だ。 当然の如く、真相は一つしかないし、終わってみれば些細な盲点を突いただけと言えるのかも知れない。 しかし、捜査のプロである鬼貫警部の目を綺麗に欺いた犯人が生み出したアリバイは容易には崩れないし、どんな些細な盲点でもそこに辿り着くまでには膨大な情報が要るのだ。 このアリバイ崩しの過程の読み
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斜め屋敷の犯罪(島田荘司)感想

本日は家に引きこもっておりました。いや、いつもか。 今日は島田荘司の名作です。 作品紹介 島田荘司の御手洗潔シリーズ作品の2作目となっており、建物自体が仕掛けになるという「異形建築もの」の走りと評されていたりもする。 なんか城内がダンジョンみたいな感じでRPG最盛期に育った自分としてはそれだけでワクワクしちゃう。 感想(少しネタバレあり) 個人的にとても好きなジャンル。 屋敷全体がやや傾いているというタイトル通りなロケーション、併せてガラス張りの塔が建っていたりして何か起きそうな雰囲気は抜群。 極め付けはこの館の主人の寝室が、無茶苦茶な感じで隔離されている点。どうしてそうなった。 とにかく面白いところ満載の屋敷で、カラクリ好きの心をくすぐるはず。 ところどころで突然挟んでくるギャグもなかなかクスっとくる。 特に、本来間違いなくエリートである東大生のキャラクタが最後までギャグ要因にしか見えなかったのは、自分だけではないはず。 ミステリの観点では、物語の犯人自体はわりと察しがつくかも知れないが、その驚愕のトリックは到底見破ることはできない
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孤島パズル(有栖川有栖)感想

私情ですが自分は今日から夏休みに入りました。 今更かよって感じではあるけれど、夏場のクソ暑い時期に出歩くよりかは今の方が快適なので、まあ良かったのかも。 作品紹介 有栖川有栖の長編シリーズ「学生アリス」の2作目。 前作月光ゲームに続き、クローズド・サークルとなっており、舞台はタイトルの通り。 クローズド・サークル、嵐の孤島ものとか言われるジャンルが好きな人は必読。 感想(少しネタバレあり) 単純明快なタイトル通りの孤島でパズル=事件の謎を解くという王道シチュエーション。 でも味付けは大分濃く、本格的な推理をしつつキャラクタたちの青春の一ページを楽しむ事ができる。面白い。 中身の部分では、主人公一行を孤島に導き事件に巻き込む引き金となったと言える「モアイ像の謎」。 これがとても良い。 よくこんな事を思いつくなあ、という感じで、まさにパズルのような、一つ一つの細かいピースが大きい事象を形成していく。 それにしても、まさか地図がトランスフォームするとは……完成度の高さに素直に驚いた。すげえ。 仕掛け好きな人ならこれだけでも充分満足できる
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11枚のとらんぷ(泡坂妻夫)感想

最近涼しくなってきて、秋を感じるようになってきた。 てか、週末に雨固めるのやめれ。 雨続きで家から出づらいので、今日もミステリの名著を。 作品紹介 「蔭桔梗」で直木賞を受賞している泡坂妻夫の長編ミステリ第一作目が本作11枚のとらんぷ。 著者のミステリ作品の中でもとりわけ評価が高い今作は、マジックショーの裏側で起きた殺人事件を著者ならではの緻密さでえがいている。 実は著者はミステリ小説家でありながら奇術師(マジシャン)であり、しかもマジシャンとしての著書もあるというなかなか珍しい作家となっている。 というか唯一無二では。 11枚のとらんぷは、そんな著者のマジック知識が存分に発揮されており、とても興味深い一冊となっている。 感想(少しネタバレあり) 著者の趣味が前面に押し出されていながら、読者がそのマニアックな知識に辟易することなく読むことができる絶妙なバランスに加え、本格ミステリの醍醐味もしっかり味わえる作品。 うん、面白い。 なにより作中の登場人物たちがラストまでマジックに取り憑かれているのがいい。 読んでる自分もそうだけれど、キ
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りら荘事件(鮎川哲也)感想

鮎川哲也の傑作として有名なりら荘事件。 先に言ってしまうと、個人的に大好きな作品で何回か読み返している一押しのミステリー。 感想(少しネタバレあり) クセの強い学生たちが羽伸ばしに集まった「りら荘」。その付近で男性の死体が見つかり、側にはトランプのカード、スペードのAが落ちていた。 と、何とも意味ありげなメッセージが残された上で、連続殺人劇の幕が開けていくこととなる。 最初の事件が起きてからは、とにかくテンポ良くストーリーが展開する作品となっており、中弛みしなく飽きない。 また、本作はテンポが早いと言うのも特徴であるが、「被害者が増える度にそれに併せて残されたトランプカードの数字も増えていく」 という犯人の遊びによって、否応なしに被害者の増加と被疑者の減少を思い知らされるという、かなり残酷な仕様であるのも特徴。 この残酷さとテンポの早さが作中の登場人物の緊張感をモロに読者に伝える要因となっており、読者は目が離せなくなってしまう。 もちろん本格ミステリーとしての見せ場もある。 「りら荘」で起きる事件は全て殺害方法が異なっており、至る所にトリックが
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修羅の家(我孫子武丸)感想

めっちゃ久しぶりの読書。 この作品は殺戮に至る病などで有名な我孫子武丸の作品で、2020年刊行となる。 この人の作品は結構ものによって雰囲気が違ったりするのだけれど、 修羅の家については殺戮に至る病だったり、弥勒の手だったり側の作風になっている。 感想(少しネタバレあり) 読者のミスリードを誘う文章力は流石! 来ると分かっててもやっぱり驚いてしまうのは、 ストーリーとして引き込まれるものがある証拠だと思う。 なんとなくモチーフに既視感があるけれど、多分これは気のせいじゃない。 こういう作品が好きな人はピンとくるかも。 個人的には好きな作風&設定なんだけど、かなり精神的なグロさがある。 そのため、人によっては受け付けられないと思う。 けれども、この手の作品にしては珍しく、ポジティブ寄りのラストだったのも良かった。 しかしながら、ミステリとしては物足りないのも事実。設定ありきな印象は否めない。 修羅の家はミステリとして読むというより、ストーリーを楽しんで読むのがちょうど良いかも。面白かった! 修羅の家【電子書籍
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フリークス(綾辻行人)感想

「館シリーズ」で有名な綾辻行人が描いたサイコ系ミステリー。 本書は精神病棟を舞台にした、「夢魔の手 ― 三一三号室の患者 ―」「四〇九号室の患者」「フリークス ― 五六四号室の患者 ―」の三作が収録された連作推理小説として刊行されており、どれもなかなか読み応えがあるというお得感溢れる一冊に仕上がっている。 一本目の「夢魔の手」は、約80ページほどの短い尺が良く生きていた。次々と裏返される物語の真実に、読者は常に頭をかき回されるはず。ラストも短編らしくストンと落ち、ページ数と内容のバランスが取れている印象を受けた。 続いて、二作目の「四〇九号室の患者」については、やり過ぎ感が否めないものの、意外性はなかなか。こういった舞台のストーリーでは定番のオチかも知れないが、面白く読めたので別に良し。 三作品どれも面白く感じる部分はあるはずなので、移動時間なんかにどうぞ。 最後に三作目、表題作の「フリークス」。サイコでぶっとんだ設定の割に、以外と真面目に謎解きしたりする変な(?)作品ではあるが、本格ミステリを書いてきた著者らしさを一番感じたのはこれ。誰でも読みやすく、ミステリーフ
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